3号室

『メモリィズ』の話

自作のマンガ『メモリィズ』の話をします。

『メモリィズ』は私が描いた2作目のストーリーマンガだ。描いた当初は(少なくとも意識的には)今ほど自分にとって重要なマンガではなかった。
コロナ禍でイベントに参加できず、また新作もずっと描けていなかったので、#エアコミティアに合わせて『メモリィズを』全ページTwitterで公開することにした。
予想外に多くの人に読んでもらえて驚いた。同時に、改めて自分が何を描いたのかを落ち着いて見直すきっかけになった。

始まりは物語よりも冊子にするときの印刷方法を先に決めた(この話はComic in the Hole vol.0,2発売記念の猪原秀陽さんとのTwitterスペースでも話した)。初めて描いたストーリーマンガを2色刷の孔版印刷で作ったので、次はもっと実験したいと思った。

利用する予定の〈レトロ印刷〉の記事を参考に、単色刷りのページと“擬似カラー印刷”のページを設けることにした。本文に使いたい紙が薄手で、両面とも多色刷りするには紙の強度が保たないからだ。全体を(擬似)フルカラーにするのではなく、多色・単色刷り混合の本にするにあたって、それが似合うテーマは何だろうと考えた。
ちょうどその頃住んでいた町では区画整理が進み、建物が取り壊されては新たな建物になったり、通りの形ごと変化していっていた。
よく見知った場所のはずなのに、更地になった途端何があったか思い出せないという経験は多くの人に覚えがあるだろう。そういった記憶の不明瞭さがやりたい印刷の性格と合うような気がして、〈記憶〉、〈思い出〉を軸にストーリーを考えた。

ラフができてページ数が決定したところで、適当な紙を折って同じページ数の冊子の模型を作り、どのページにどの絵が入るかを確認した。

あらかじめカラーになるページ、ならないページを割り出しておいて、カラーページは万年筆とマーカーで、単色ページは万年筆とスクリーントーンで作画した。

初めての印刷方法だったので試し刷りをして、印刷所の方からのアドバイス(とても助かりました、本当にありがとうございました)も参考にしつつ、本が完成した。

それ以前に作った冊子は友人にデザインを手伝ってもらっていたこともあり、最初から最後まで自分で、それも内容以外をここまで細かく考えながら作ったのは初めてだったので、出来上がったものを見ると不思議な心地だった。

マンガのストーリーではない、本としてのつくりにこれほどこだわったのには一応の理由がある。
やってみたい印刷方法から始まったとはいえ、イベント出展して売ることを前提にマンガを描いた。言い換えると、ひとにお金を使ってもらおうとしているのだ。
お金を稼ぐのは大変なことだ。誰もがやりがいをもち、意欲的に仕事ができるわけではない。人には人それぞれの生活もある。その大変な思いをして稼いだ大事なお金の数百円を、生活必需品でもなければプロの作品でもないものに使ってもらうのだ。
いくら私が頭を捻って懸命に、自分なりのいいものを描けたとしても、それが読んでくれる人の貴重な数百円に値するのか、実際のところまったく自信がない。何もわからない。ならばせめて、フィジカルなモノとしての満足度が高い方がいいだろう。そう思って素人なりに可能な限りこだわって作った。
Twitterで全文読んだ上で買ってくれた人から「紙で買って正解だった」と言ってもらえた時は本当に嬉しかった。

ストーリーの話もしようと思ったけれど、長くなったのでまたいずれにします。

『メモリィズ』以降、まとまったマンガが描けない期間が続いた。今も新しいものを描いているが、全行程で難航している。難航すると元々なけなしの自信がどんどんなくなっていく。けれど今年こそまたマンガで冊子を作ってイベントに出たい。
そういう奮起と振り返りのブログでした。お付き合いいただきありがとうございました。

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